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ラグジュアリーは、進化する。

エクスプレス・アリーナには、伝統的に「ニーズ」よりもむしろ「欲望」をターゲットにしてきた業界やビジネスが集まっていました。しかし、予期せぬ新プレーヤーがこのアリーナに参入するにつれ、改めて根本的な疑問が浮かび上がってきます。消費者はなぜ、他ならぬそのブランドの製品や体験を求めるのでしょうか?

ファッション、ライフスタイルはもとより、アート&カルチャーから(一部の)音楽イベントまで、今日の「欲望」のパターンを支えるエネルギーは、その人が帰属するコミュニティやサブカルチャーのなかで、自己表現したいという人間の根源的な欲求であると、私たちは考えています。

自己表現したいという欲求を、利己主義、あるいは欧米文化固有のものだと決めつけるのは早計です。

アメリカの組織人類学者、ジュディス・E・グレイザーは「脳科学は、人々が互いにつながり、歩み寄り、成長するための最も重要な手段の一つが“自己表現”であることを教えてくれる」と語っています。

彼女はまた、このモチベーションの根底には「ベストな自分であることへの自信の創出のみならず、他者と共存するための信認」への欲求があると指摘しています。帰属するコミュニティとアイデンティティを示すことは、人間にとって切実なことなのです。

インターブランドグループが消費者を対象に行った調査は、こうした動機が「つながり」の核心にあることも示唆しています。このデータからは、「顧客が自分にとって重要なことを表現する手助けをするのが優れたブランドであることが読み取れます。逆に言えば、顧客の目には、「自分たちのアイデンティティと共生するブランドが優れたブランドであると映っているのです。

これらのコンテクストからは、既成のブランド構築モデル、例えばラグジュアリーの定義に使われるモデルは、あまりにも硬直的で、カテゴリーや価格帯のセグメントを定義し続けているに過ぎず、顧客の行動を促すのに必要な深層心理を説明するのに役立っていないように見えます。

社会的、政治的、経済的状況がますます予測不可能になっていることを背景に、この傾向はますます顕著になっています。フィナンシャル・タイムズ米国版の総合編集長であり、「アンソロ・ビジョン−人類学的思考で視るビジネスと世界」(日本経済新聞出版)の著者であるジリアン・テットは、我々の独占インタビューで次のように語っています。「消費者のコンテクストが変化しているとき、固定されたモデルに縛られていると、足元をすくわれる危険性があります」

この点においては、消費者は私たちの先を行っています。自分たちの帰属すべきアイデンティティを最もよく表しているものは何かと尋ねると、回答は形式的なカテゴリーを超え、明確なパターンを示しています。私たちもアリーナ思考に入りましょう。

食品スーパーを、自分のアイデンティティやコミュニティを表現するブランドだと考える消費者がいることを、あなたは想像できるでしょうか?しかし、そう考える人々がいるのです。ニューヨーク・タイムズで紹介されたオーガニックスーパー、エレワン・グローサリーがそれです。

「ヘルシーフードを扱う店がクールとは、まるでパラドックスですね」と語るのは、エレワン社の副社長、ジェイソン・ワイドナー氏。彼はこの10年間、1店舗に過ぎなかったエレワンが、最近シルバーレイクにオープンした店舗を含む小さな帝国になるのを見つめ続けてきました。

「バドライトを片手にクリフダイビングなんて、もはやクールではありません。グリーンジュースを片手にクリフダイビングがクールなんです」とワイドナー氏は言います。

スローフード協会の副会長であり、数々の賞を受賞しているアリス・ウォータース氏は、最近の著書「We Are What We Eat」の中で、食事とは単なる個人の選択ではなく、社会的・政治的行為でもあると論じています。

エクスプレス・アリーナへと進化する世界で、エレワンが発するパワーに疑いの余地はないでしょう。エレワンのような存在は、ブランドであると同時に声明でもあるのです。そして、伝統的なラグジュアリーブランド同様、私たちのアイデンティティの一部を示し、投影します。さらにはそれを高い欲求へと変換し、価格プレミアムも実現しているのです。

ここで問題なのは、エレワンがラグジュアリーかどうかではなく、伝統的なラグジュアリーの概念が、今日の社会と時代性を捉えるのに十分なものであるかどうかという点です。ラグジュアリーとは、排他性、キャットウォーク、ジュエリー、ヨットなどに象徴されるもの、というありふれた見方はもはや過去のものになりました。それらはエクスプレス・アリーナを取り巻く要素のひとつでしかないのです。

伝統的なラグジュアリーブランドの中には、現在も、場合によっては従来以上に、帰属意識の強いシンボルであり続けているものもあります。しかし、多くのブランドは「私は余裕がある」以上の「つながり」を表現したい世の中で、顧客との関連性を見出すのに苦労しているようです。

並外れた「つながりを生み出すには、人々の暗黙のニーズを深く理解し、消費者と共に意味を進化させ続ける姿勢が必要です。高級品業界に特化した戦略およびM&Aアドバイザリー会社、Ortelli&Co.のマネージング・パートナー、マリオ・オルテッリの言葉を引用します。「ブランドは、人々が自分自身のストーリーを構築するために使うアルファベットの文字になりつつある……。彼らは価値の放送局である。つまり、顧客こそがブランドなのだ」

エレワンに限らず、プラダ、グッチ、グロッシー、ボッテガ・ヴェネタ、ナイキ、ペロトンなど「エクスプレス・アリーナ」で先行するブランドは、果たすべき役割と細分化に適応しています。彼らはパートナーシップを重んじ、コンテンツを創造し、新しい体験を採用しています。彼らは、自分たちのコミュニティを構成するサブカルチャーとのオープンな対話が、長期的に「つながり」を保ち、ロイヤリティを構築する唯一の持続可能な方法であることを認識しているのです。 数十年前、独占性や所有権、ステータスといった価値観に基づいて構築された古いラグジュアリーの概念は、意味やつながり、帰属意識を求める個人の世界と、さらに乖離していかざるを得ないでしょう。

Translated and edited from “INSIDER VIEW – Luxury isn’t what it used to be”:
https://interbrand.com/thinking/luxury-isnt-what-it-used-to-be/