今年のブランド価値ランキングの全体的な傾向として、「成長の鈍化」が挙げられるとのことですが、長年このランキングを主幹されてきた経験から、どの程度、顕著な傾向と言えますか?また、今年の「成長の鈍化」には、過去に見られた同様の傾向と明らかな違いが見られますか?
直近では2009年にブランド価値の伸びが鈍化しましたが、今年は約10年ぶりの成長率鈍化の傾向となります。
今回の成長率を考えると2つのポイントがあると思います。
2021年と2022年の成長率は約15%で、今年は約6%の成長率に留まっています。
この停滞の理由は、特別な危機によるものではなく、ブランドの成長よりもコア領域を守ることに重きが置かれた結果であると思っています。事実として大半のブランドは、ブランド価値金額に大きな変化は見られず、目立った動きもなかったことから、これはおそらく、不確定な経済情勢などの事業環境に対する保守的な姿勢も影響していると思っています。
今年の減速の兆候として、「ブランド・リーダーシップ」の弱さを指摘していますね。 昨今のビジネス環境において、この「ブランド・リーダーシップ」をどのように定義しますか?また、なぜそれが重要なのでしょうか?具体例があれば教えてください
「ブランド・リーダーシップ」の定義は色々あると思いますが、私が特に説得力を感じる一つの側面があります。
ブランドとは、今やコミュニケーション以上のものです。ビジネスを牽引するリーダーがそのビジネスをどのようなものにしたいかを表明することであり、理想を掲げることでもあります。
しかし、通常、ブランド(ビジネスがどうありたいか)と、ビジネス(ビジネスがどうあるか)の間には常にギャップがあると考えます。偉大なブランドとは、このギャップを縮小し、組織とありたい姿の距離が非常に近い状態を築けているブランドだと思います。言い換えれば、強力な「ブランド・リーダーシップ」とは、ブランドとビジネスの間のギャップを取り除き、ビジネスを可能な限りブランドに近づけるために、漸進且つ大胆な行動をとり続けることだと思います。ただし、それは容易なことではなく、実行に移し、体現しているブランドは決して多くはないと感じます。
例えば、アップル、ナイキ、エルメスといったブランドは、上手くいっている企業例だと思いますが、決して妥協を許さない能力が求められます。
コミュニケーションからデリバリー、倫理的価値観の示し方まで、ほぼ全てが妥協のない行動力の表れであり、象徴的なブランドの立ち位置を確立していると思います。
企業がブランド・リーダーシップを惜しみなく発揮するためには、経営者や組織、ビジネスパーソンがどのような価値観や行動を持つ必要があると思いますか?また、その理由はは何でしょうか?
11月のランキング発表後に、私たちの発刊したグローバルレポートでは、ブランドを象徴的なものにする5つの原則、すなわち必須条件について具体的に述べています。これらは、どのようなリーダーも自らを評価することができる、非常に実用的なチェックリストになります。
まず、人々が認識する視覚的、感覚的な「コード」を持っているか?
グローバルランキングからの好事例は、紛れもなく想起されるティファニーと「青」ですね。
2つ目の必須事項は、オペレーション、ガバナンス、マネジメントにおいてもブランドを実現できているかどうかということです。例えばアマゾンは、顧客のために価値を提供するように設計され、時間をかけて変化してきた組織の素晴らしい結果だと信じています。
第3に、体験。ブランドは期待に応えているか、あるいは期待を変え、超えているか。ナイキや、新しい顧客との交わりを次々に進化させていく姿を思い浮かべると明らかだと思います。
第4の条件は、エコシステム。最も優れたブランドは、データを活用し、製品、サービス、体験において高度にパーソナライズされた一貫性のある世界を構築できています。
例えば、グーグルですね。最後に、リーダーシップ。政府やメディアといった既視感のある権威に対する信頼が低下している今、人々はブランドにこそ、真摯な誠実さと倫理観を持ってリードすることを期待しているという調査結果もあります。例えば、アップルはこのリーダーシップを象徴するブランドだと思います。
では、次に日本企業の動向に関連した質問です。
世界ランキングにランクインしている日本企業はまだ少数なのが現状です。
日本企業のブランド価値の成長について、どのような傾向分析をされていますか。先ほどおっしゃったブランド・リーダーシップの観点からもご意見を伺いたいと思います。
とても興味深い質問で、私自身もずっと考えてきたことです。
私は80年代のヨーロッパで育ちました。ソニーのウォークマンは今日のiPhoneのようなもので、卓越した品質で作られた革新的で高揚感の対象だった記憶が鮮明にあります。
ヤマハ、ホンダ、トヨタなどは、信頼性と革新性の象徴であったと思います。
ただし、いまは決してそうは言えないのではないか?その理由は、世界中の顧客とのつながりや関係性という意味においてです。
先にお話しした「必要条件」について考えてみると、ジャパニーズ・ブランド・レガシーは一般的にデリバリーには非常に強いものの、他の4つの必要条件にはあまり強くないというのが私の考えです。
興味深いのは、新世代の日本ブランド、無印良品やユニクロは(ベスト・グローバル・ブランド・ランキングには(まだ)ランクインしていませんが)、体験を構築する能力を十分に示していると思います。
先に述べた必要条件こそ、象徴的な地位を獲得する、あるいは取り戻すための効果的なロードマップを形成するものと思います。
2024年、ブランドを取り巻く環境はどのように変化すると思いますか?
また、企業はどのような準備をすべきでしょうか?
日本は経済環境が停滞していると言われていますが、日本企業の革新的な資質、優れた製品サービス、労働倫理、デリバリー能力に対する世界からの尊敬の念を、世界の顧客とのより強いつながりに変えることが可能であると確信しています。
そして日本は、その独自性によって、分野やカテゴリーを超えてリードするターニングポイントを生み出すことができると信じていますし、上記の5つの原則に照らして組織の価値観や組織力を見直し、日本にしかできないことを世界に発信することを強く推奨します。
いかにしてブランドを最高の形で世界に存在させるか?
先行き不透明な経営環境の中で、このブランド・リーダーシップは、皆さんにとって重要な問いかけになると感じています。
マンフレディ・リッカ
グローバル・チーフ・ストラテジー・オフィサー、インターブランドのアプローチとソート・リーダーシップの開発をリードし、インターブランドのビジネス戦略の策定に携わっている。また、多くのグローバルクライアントの経営陣から信頼されるアドバイザーでもあり続けている。
インターブランドではミラノオフィスのCEOからキャリアをスタート。 20年以上にわたり、グローバルでも評価の高い企業のブランドを強化、それらの成長に貢献してきている。ファッション、ラグジュアリー、IT、製造、金融サービス、自動車など、様々業界での知見と実績を持ち、受賞歴多数。