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Best Japan Brands 2025に見られた成長ブランドの強さ(後編)

前編では、弊社のブランド価値評価視点の一つであるブランド強度の視点から、成長ブランドに見られる特徴について考察した。後編では「アリーナ」の視点から成長ブランドの特徴を見てみたい。 

Best Japan Brands 2025における成長率トップ5のブランド 

今年の成長率トップ5はASICS(+28%)、Mitsui Fudosan(+26%)、Recruit(+24%)、Hitachi(+24%)、ORIX(+22%)となり、トップ5のブランド全てが前年比20%超となった。 

成長ブランドに見られる傾向としては、①社会価値と経済価値の両立、②顧客やステークホルダーとの共創による価値の創造、③顧客の享受価値に根差した事業領域の拡張の3点が挙げられる。 

このうち本稿では③に着目してみてみたい。 

アリーナとブランド価値 

アリーナとは、直訳的に表現すると「ブランドの闘う場」ということになるが、ブランドと顧客の関係性、そして、ブランドの競合関係を新たに定義する概念である。これまでは企業視点で、コア・コンピタンスを軸にいかに顧客に価値を提供していくかという観点からブランドの活躍する業界/カテゴリーが定義されてきた。しかし、人々がより「自分にとってのブランドの意義」を大切にするようになる中、ブランド側は顧客視点で「人々のやりたいことをどう叶えるか」という享受価値の視点から、「闘う場(アリーナ)」を定義する考え方へとシフトしてきている(*注1)。 

*注1) 

インターブランドでは、人間の根源的なニーズを紐解く研究も参考にし、米コロンビア大学ビジネススクールのリタ・マクグラス教授らとも研究を重ね、下図の右上にある12のアリーナを定義している(*注2)。それぞれが「〇〇したい」という顧客の欲求・ニーズを満たす享受価値を表し、それを叶えるブランドの「闘う場」がアリーナということになる。 

*注2) 

アリーナに関しては、2023年に調査も実施し、Best Japan Brands 2023にランクインしたブランドが生活者からどのようなアリーナで想起されるのかを紐解いた。その結果と考察の詳細については弊社レポート「生活者の享受価値から競合環境を捉えるアリーナ(https://www.interbrandjapan.com/researchlist/arenaresearch/)」をご覧いただきたいが、ここで明らかになったことは、ブランド価値が高いブランドや成長ブランドは想起されるアリーナの量が多かったという点である。ここでアリーナの「量」と書いたのには意味がある。3~4のアリーナでTOP10に入る想起量を得たブランドが、ブランド価値の成長の度合いが高かったのである。アリーナの数が多いことだけでなく、そのアリーナで「強く想起される」ことが重要であったことが分かる。 

Best Japan Brands2025の成長ブランドにおける傾向 

さて、前置きが長くなったが、実際にBest Japan Brands2025で成長率トップ5に入ったブランド(ASICS、Mitsui Fudosan、Recruit、Hitachi、ORIX)においてはどのような傾向が見られたのだろうか。 

まず、Recruit、ORIXについては、誰もが複数アリーナでの存在の大きさを想像できるだろう。Recruitについては「Connect(他の人やモノと繋がりたい)」「Learn(世界や仕事に関する知見を拡げたい)」「Explore(リアルに、またはデジタルに新しい世界を開拓したい)」「Dwell(よりよい住生活を送りたい)」「Express(自分らしさや自分の大切なものを他の人に見せたい)」など、人を中心に据え、その多くの享受価値を満たすプラットフォームとなっている。またORIXは個人を超えて社会にも目を向け、「Fund(お金を管理・運用したい)」「Move(移動したい/移動させたい)」「Play(ストレスから解放されたい/自分らしくいたい)」「Do(仕事や家事を効率化したい)」など、多くの享受価値を叶える存在となっている。いずれのブランドも複数アリーナに展開しながら、それらが一つのブランドの下で繋がりをもつことで、ひとりの顧客がこのブランドからいくつもの価値を享受できる点が評価される。ORIXについては2023年11月にパーパスとカルチャーを制定し、ブランドの方向性を定めることで、多様な事業間の繋がりが強化される環境が整えられたこと成長に寄与していると考えられる。 

一方、ASICS、Mitsui Fudosan、Hitachiについては、どちらかというと企業視点の事業展開からアリーナ視点での事業展開にシフトしてきた事例と捉えることができるだろう。 

ASICSは「Sound Mind, Sound Body」を全ての判断基準とし、心と身体の健康、質の高いライフスタイルの創造を目指している。すなわち「Thrive(よりよく生きたい)」というアリーナに焦点を絞り、事業の選択と集中を進めると共に、商品に限らず、ロイヤリティプログラム、イベントへの投資など、あらゆる角度から享受価値の創出を図ってきた結果、ビジネス的にも大きな成長と遂げている。 

Mitsui Fudosanは2024年に経営理念を再定義し、コーポレートメッセージ「さあ、街から未来をかえよう」を策定、プラットフォーマーとしての役割を強化していることが窺える。「Dwell(よりよい住生活を送りたい)」アリーナに留まらず、「Thrive(よりよく生きたい)」アリーナにおいても、様々な人や企業を繋ぐ場やコミュニティを提供し、社会的価値、経済的価値双方の創出の実現を目指している。 

最後にHitachiは以前からソーシャルイノベーションを掲げてきていたが、近年それが事業の選択と集中、外部との共創、ソートリーダーシップなどを通じて、全社的な一つの大きな力となり成長に繋がっていることが見て取れる。「Do(仕事を効率化したい)」「Move(移動したい/させたい)」「Procure(必要なものを必要な時に手に入れたい)」といった享受価値を叶えつつ、「Thrive(よりよく生きたい)」アリーナでも存在感を増していると言えよう。 

今後の成長に向けて 

複数アリーナに展開するブランドは、ひとりの顧客に対して複数の享受価値でアプローチすることができる。すなわち、顧客のマインドシェアのより大きな部分を占めることができ、結果として、何かをしたい/欲しいと思った時に想起されやすいブランドとなる。そして逆もまた真である。顧客のマインドシェアが大きいブランドは、何か新しいアリーナに展開しようと思った時に顧客に受け入れやすい。 

インターブランドでは顧客の選択におけるブランドの効き具合(「ブランドで」買う割合)を「ブランドの役割(Role of brand)」として、ブランド価値を分析する一つの評価指標としている。この「ブランドの役割」は商材にある程度規定される。例えば香水では非常に高く、ほとんどの人が「ブランドで」選んでいるが、家電などでは、ブランドだけでなく、価格やスペックなども重視されるだろう。また同じ商材であっても、例えばクレジットカードにおいて、American Expressのブランドの役割はVISAのそれよりも高い。このように、同じカテゴリーであっても「ブランドの役割」を高めていくことは可能である。この「ブランドの役割」は先に述べた顧客のマインドシェアと同じようなものと捉えることができる。「ブランドの役割」の大きなブランドは新しいアリーナに展開しても受け入れられやすく、また、複数アリーナに展開するブランドは「ブランドの役割」を大きくしやすい。 

顧客にとって「選択肢の一つ」から「なくてはならない」ブランドとなっていくために、「ブランドの役割」を高め、顧客のマインドシェアを高め、さらにはアリーナを広げていく。ここにこれからのブランド成長の鍵があると言えよう。