We give our clients the confidence to make Iconic Moves

Japan Branding Awardsから考察する 新・ブランド戦略論

【Vol.3】「Japan Branding Awards 2024」GOLD受賞企業が語る(後編) ステークホルダーをいかに巻き込むか

「Japan Branding Awards 2024」のGOLDを受賞したBioré(花王)、Goldwin Inc.(ゴールドウイン)、SHIRO(シロ)。ブランディングへの高い評価をされた3ブランドは授賞式のパネルディスカッションで何を語ったのか。第2回では、「ブランドの定義」「ブランドと事業の関係性」についてご紹介。ブランドを成長させる一つのキーワードに「破壊」というキーワードも飛び出した。今回は、パネルディスカッションの後半をレビューする。

「巻き込み」の原動力となる「本当に社会を良くしたい」気持ち

畠山
次のテーマとして、ブランディングにおいて「周りを巻き込む」という点について伺っていきたいと思います。Japan Branding Awardsにおける評価指標(クライテリア)のひとつにも「ステークホルダーとの関係構築」を大事な要素に加えています。ブランドは、一方通行ではなく、相互の対話によって作られる点や、社員だけでなく、お客様や地域の皆様、ときには競合企業とも一緒に作っていくことが重要な点と考えているからです。まずは、今井さん、その点いかがでしょうか。

今井
北海道砂川市の「みんなの工場」は、SHIRO のモノづくりへの姿勢やプロセスを「オープンに」みせることで、SHIRO が続けてきた「⾃分たちが使いたいものを創る」ものづくりを体験できるような場を作りたいという思いで設計しています。20回以上、市民とワークショップをやっていますし、プロボノ(仕事で培ったスキルや経験を活かして、社会貢献活動を行うこと)を募集し、多くの皆様に助けていただきながらプロジェクトを進めています。
実際、福岡や東京や砂川市に所縁のない人が「ホームページはつくれます」「上手に写真を撮れます」「広報・PRはできます」と手を挙げていただき、空いている時間を活用していただきながら、みんなの力で工場ができているんですよね。これがSHIROのスタッフではなく、プロジェクトがなかったら知り合えないであろう皆様とSNSなどを通じてつながることができています。募集してみると、手を挙げてくださるんですよね。

参加してくれる多くの方からは「本当に社会を良くしたい」という声をよく聞きます。残念ながら所属している企業や環境ではそれがなかなか叶わない。でも、コロナを経て、オンラインで情報のやり取りができる環境が充実したことで、こうした取組みに参加できるようになったと。蓋を開けてみたら社会を良くしたいと思っている方々がこんなにもいるんだなと感じました。

畠山
社会を良くしたい、と考えていても、具体的に何をすればよいか分からなかったり、機会がないと思っていらっしゃったりする方が実は多い。その場をSHIROは提供できているのかもしれませんね。

今井
自分で0から何かを起こすことは結構大変なことですが、こうしたプロジェクトに入って、自分のスキルを提供し、関わりを持ち、社会に貢献したい、と思っている人は実はたくさんいそうです。

「巻き込む」ことで社会課題に対して、ステークホルダーと目線を合わせる

畠山
興味深いですね。では、小林さん、Bioréにおいてはいかがでしょうか。実際、社員の方を含め巻き込む関係者がたくさんいると想像します。「巻き込む」という点をどのように捉えていらっしゃいますか。

小林
本当におっしゃる通りで、多くの関係者の方に支えていただいています。社員に限らず、肌をインターフェースと考え、人や社会とつながりを広げるという考え方に賛同いただいている皆様と共創プロジェクトを色々仕掛けています。

例えば、コロナ以降、紫外線や熱中症が社会課題になって来た際、動物園や遊園地などの施設の方や生活者の皆様とお話をする機会を持ちました。ヒアリングをすると、行列に並ぶ際に紫外線が気になったり、熱中症のリスクを感じたり、せっかくのレジャーを楽しめないという生活者の声がありました。さらに、そうした理由から来場するお客様が減ってしまっているという施設側の課題も耳にしました。
こうした課題を、我々のパーパスと照らし合わせ、何かお役に立てないかとアクションを起こすと、具体的な取り組みが形になっていくわけです。この時は紫外線対策の啓発ブースを施設に設置し、当社の社員が自ら出向き、紫外線対策の正しいやり方、日焼け止めの塗り方などを生活者と対話しました。こうした活動をする際、ありがたいことに多くの方にブランドや日焼け止めの効果を認知いただいていることもプラスに働いているように感じます。こうした取組みを通じ、社会課題に対して、ステークホルダーと目線が合いやすくなりますし、さらに次の活動が生まれるという好循環が生まれます。「巻き込み」を組織として意図的にやっている面もあります。当社は国内のマーケティング担当者だけで30人以上おり、関連する部署も含めるとさらに大きな規模となります。皆、Bioréが好きですし、日々パスを出し合いながら、人を紹介し合ったり、アイデアを出し合ったりしています。

畠山
小学校での手洗い教室なども素晴らしい企画ですよね。こうした活動は、このターゲットに向けてやっていこう、など戦略的に決めて巻き込んでいるのか、どのように広げてらっしゃるんでしょうか。

小林
戦略的にターゲットを決めるというよりも、社員の「生活者や社会のお役に立ちたい」という気持ちが起点であることが多いです。手洗い教室もその一つの代表例ですね。まず、子どもが手洗いしやすいBioréのハンドソープがあるからこそ活動が成立します。子どもの手洗い習慣を作るのにちゃんとお役に立てる商品があるので、我々も自信をもって学校との関係性を作ることができます。現場には社員が出向き、子どもたちと手洗いの歌を歌うのですが、子どもたちは本当に喜んでくれます。そうすると、Bioréのことを好きになり、また次のアクションを起こしたくなる。こういう好循環が回っています。
それを実現できるのはBioréが本質と向き合い、研究しているからだと思うんです。そこから生まれた自信をもって提供できる良いものができると、本当の意味で社会にお役立ちできるし、結果としてブランドにも返ってくるんだなと思います。

業界全体の評価向上によりブランドのエンゲージメントも高まる

畠山
山屋さんはいかがですか。ゴールドウインは、競合企業をも巻き込んだ活動をされていらっしゃるそうですね。

山屋
「巻き込む」という意味合いで、二つほど事例をご紹介したいと思います。
一つ目は、2024年9月に立ち上げた「Goldwin Field Research Lab.」の取り組みです。これはゴールドウインがフィールドと捉えてきた様々な領域を、時に深め、時に拡張し、どんな希望や課題、問題があるのかを捉え、考え、調べ、行動し、理解や解決へと導いていくためのプロジェクトであり、メディアです。

一つのテーマとして、2024年1月の能登半島地震があったなか、「防災とアウトドア」をテーマに、我々アウトドアブランドとして何ができるかを調べ、考えることがありました。その時に知ったのがモンベルの取り組みです。震災後、すぐに物資を支援し、社員が現地に赴く行動をされていらっしゃっていて、これは見習うべきだし、できる部分はご一緒したいし、是非お話を聞いてみたいとなりました。普段は競合企業ではありますが、門をたたき、お話を伺い、メディアで情報を公開しました。結果として、当社でもボランティア活動をしたり、会社の制度を変えたりするところまで出来上がりましたし、面白かったのはこの取り組みをメディアやポッドキャストで公開するうちに、学生やアーティストから「面白いから参加したい」というリアクションをいただけたりしたことです。我々から声をかけるのではなく、活動を見つけていただき、「面白いから一緒にやりたい」と言ってくれる方が、全く狙ってはいなかったのですが、増えてきたことはとても嬉しく思っています。

もう一つは、原宿での取り組みです。我々はTHE NORTH FACEの店舗を原宿にいくつか持っているのですが、問題意識をもった原宿の人たちが協議し、リペアのイベントを行いました。ブランド単体が取り組むのではなく、原宿エリアの店舗がタッグを組み実現しました。そのなかにはパタゴニアなど競合企業もいらっしゃった。売上だけを考えると、そういう連携は難しいと思うのですが、現場のメンバーの意思でそうした活動が実現できたのは興味深かったです。我々が目指すパーパスの実現がこうした活動を通じて少しずつ形になっている実感があります。コロナ以前は、企業がどうあるべきかという観点で、色々な動きがあったように思いますが、コロナを経て、「みんなでどういう世界にしたいか」という価値観が前よりも重視され、それに紐づいた行動が増えているようにも感じます。
もう一つは、原宿での取り組みです。我々はTHE NORTH FACEの店舗を原宿にいくつか持っているのですが、問題意識をもった原宿の人たちが協議し、リペアのイベントを行いました。ブランド単体が取り組むのではなく、原宿エリアの店舗がタッグを組み実現しました。そのなかにはパタゴニアなど競合企業もいらっしゃった。売上だけを考えると、そういう連携は難しいと思うのですが、現場のメンバーの意思でそうした活動が実現できたのは興味深かったです。我々が目指すパーパスの実現がこうした活動を通じて少しずつ形になっている実感があります。コロナ以前は、企業がどうあるべきかという観点で、色々な動きがあったように思いますが、コロナを経て、「みんなでどういう世界にしたいか」という価値観が前よりも重視され、それに紐づいた行動が増えているようにも感じます。

畠山
確かに、「私のブランドだけ」と考えてしまうと、競合企業が入ってくると「ブランドの存在が薄まってしまう」とも捉えられますが、そんな風には皆さん考えていないのですね。むしろ、社会課題解決のために皆で取り組むことで、「あの業界は良い取り組みをしているね」と評価されていらっしゃる。結果として、業界全体の評価が上がり、それに紐づきブランドのエンゲージメントも高まっている。それにしても、本気度を感じる取り組みばかりですね。

今井
すごく羨ましい!

「共感」「怒り」「うねり」50年後、100年後も見据えて何が必要か

畠山
今井さんに是非伺いたいのが、新しいスタッフがどんどん入ってくるなかで、社員の方々をどのようにブランドに巻き込み、ブランドの考え方を浸透させていらっしゃるのか。声掛けをするなど、何かお考えはありますか。

今井
ない(笑) というのも元々SHIROが好きで入社いただいているひらがなにする方ばかりですし、こちらからお願いして入ってもらっていない。ですので、ブランド教育をする必要をあまり感じていません。

畠山
なるほど、もう少し突っ込んで聞いても良いでしょうか。長い時間軸を考えたときに、色々な考えが出てくるし、バラつきが生まれる可能性もある。一つの考えに集約するべきではないかもしれませんが、大きな意味で向かっている方向性や、自分たちはどうやるのか目指すところを決める、といったことはあまりしていませんか?

今井
そうですね。ブランドとしてまだ15年しか経っていないので、「こういうブランドだ」と決めるところまでいっていないのかもしれません。都度ジョインしてくださったスタッフやステークホルダーと思いや考えを積み重ねていき、ブランドを育てている段階のようにも思います。そういう意味では、ゴールドウインの山屋さんのお話を興味深く聞かせていただいていました。スポーツの業界は横のつながりが確かにあるな、そして素敵なことだな、と。そして自分に立ち返って、化粧品業界のブランド同士でどこまでできているかなと。ゴールドウインのような活動が生活者に見えてくると、良い意味でブランドがつながり合い、社会がもっと良くなっていくようにも感じました。

畠山
砂川市の市民の方を巻き込むという点でも伺います。地域を巻き込む、というのはとても大変だと思います。色々な方がいらっしゃるなかで、巻き込む方をセグメンテーションするのか、すべての方を巻き込むのか、どのように進めていらっしゃいますか。

今井
人も、動物も関係なく、基本はどなたも排除することなく活動しています。ですので、本当に色々な方に参加いただいています。お医者さんもいて、行政の方もいて、おばあちゃんも、子どもたちもいて。できる限り多くの人たちを巻き込んで、声を聴いてやってきました。もちろん腹が立つことや大変なこともありますよ(笑)

畠山
排除しないというのは素晴らしいですし、そのうえで壊し続けているというのもすごく面白いです。そうすることで、おそらく色々な概念が混ざり合っているんだと思います。ブランディングの考え方はどんどん変わっていくものだと思いますし、インターブランドが考えているブランディング2.0においても、ヒントをいただいているように思います。

余白を持ちながら、時に破壊や再構築し、ブランドを育てる

畠山
では、皆様に最後のご質問です。本日お話を伺っていても、ブランドは体験に落とし込んだり、人を巻き込み大きなうねりを起こしたりしていくことが大事なのではないかと感じました。ブランディングにおいて、今後こうしていきたい、こうなったらいいな、という展望を是非お聞かせください。

山屋
エネルギーですよね。 今後、グローバル展開という大きなチャレンジをしていくうえで、源泉となるのは何か考えたときに、頭や心に浮かぶのは、創業者・西田明男の思いです。「見えないものにこそ、『真実』の価値がある」という言葉に込められた思い、DNAが会社に浸透しています。事業を考える上で、そこに立ち返るところがあるからこそ大きなうねりを起こせるのではないかと思います。そして、こうした共通の源泉があることで、納得感がある。今後もブランドを大切に育てていきたいですね。

小林
山屋さんのうねりのご説明は共感しますね。様々な活動をしてそれが集まると、もちろんメリットはあると思いますが、GOLDを受賞された企業の皆さんは、もっと大きな迫力や覚悟のようなものも感じました。そうした迫力がどこから来ているかを考えてみると、大きな潮流や社会課題に向き合い、突き詰めて考えているか、ではないかと感じるんです。Bioréも、コロナの時はハンドソープや消毒液で世の中に少しでも貢献したかったですし、コロナが落ち着いてからは、猛暑や紫外線という課題にとことん向き合っている。こうした大きな潮流に対応する力がBioréには備わっているようにも感じました。ブランドのあるべき姿について細かい規定をあえてつくらず、余白を置くことで変化に対する対応力が生まれています。組織についても同様で、本日私が登壇していますが、Bioréのブランドマネジャーは4名いて、誰が前に出ても良い。不確実性の高い世の中は、今後も変化し続けると思います。そこに対応できるパワーがBioréのブランドにあると思いますので、今後もうねりを起こしていきたいです。

今井
10年先、30年先、100年先を考えていくときに、まずは素直に社会課題を解決する企業、社会を良くする企業でありたいなと思います。SHIROは、自分たちが作りたいものを作るだけでなく、社会を良くしていくために取り組んでいると思っていますので。今、私たちの前に存在する社会課題はあまりに多く、怒りにも似た気持ちが湧いてくるじゃないですか。その怒りがあるからこそ、本気で向き合う気持ちを生み、取り組むことができ、そこに共感が生まれ、うねりになっていくんじゃないかと思います。

畠山
皆様、ありがとうございました。本日、皆様のお話をお伺いしていて感じたのは、将来こういう世の中になるから、と予測して合わせていくのではなく、自分たちが持っているものをしっかりと見つめ直しながら、社会との関係をとても丁寧に考えられている。加えて、ブランドに余白を持ちながら、時に破壊や再構築をしながら、ブランドをしっかり育てていらっしゃる。「Japan Branding Awards 2024」のパネルディスカッションにふさわしい、学びある貴重なお話をいただけたと思います。本日はありがとうございました。