We give our clients the confidence to make Iconic Moves

本シリーズでは、メタバースに関する疑問に、ブランドの視点からお答えしていきます。シリーズ最初の本稿では、ブランドがメタバースにおいてプレゼンスを発揮し、関連性、親和性を築き上げるための最大の好機を探っていきます。

FacebookがMetaにブランド名を変えたことの最も重要な効果は、いわゆる「メタバース」の可能性を広く社会に示したことでしょう。Metaの始動以来、多くのブランドがメタバースの意味と可能性について探り始めています。

野心的に捉えれば、メタバースは、リアルな世界と並行して存在する中間世界(リミナルスペース)と位置付けられます。そこでは、どんな自分にも、無限の自分にも、さらには自分を超えることさえできる……。そんなイメージが説得力を持って語られています。

誰がメタバースを創るのか?

メタバースの重要な原則のひとつは、そこが単なる仮想空間ではなく、リアルと統合され、行き来が可能な「エンティティ(実体)」だという考え方です。すでにMeta社のVRプラットフォーム「Horizon Worlds」やZ世代に人気の「Roblox」など、ゲームやビジネスなど異なる目的のために構築された複数のメタバースが存在し、それぞれが枝を伸ばしつつあります。メタバースは単独のネットワークではなく、個別のルールで成長する独立した空間の集合体であり、それぞれが優位性を高めるために規模を拡大しようとしているのです。

メタバースを舞台に、現代のビジネスリーダーたちが繰り広げるエコシステム獲得競争を観測することは、ネットワーク社会におけるブランド管理にとって有意義な示唆となるでしょう。

歴史的に、ベストグローバルブランドや急成長企業の多くは、顧客との絆を強固にするビジネスシステムを保有しています。たとえばAppleは、ソフト、ハード、タッチポイントのすべてが美しくデザインされるだけでなく、相互につながる統合モデルによってプレミアム性を維持し、他のプラットフォームへの離反も防いでいます。エコシステムがいかに価値を生むかを示す好例といえるでしょう。

一方、Microsoft の CEO、サティア・ナデラ氏の言を借りれば、このようなエコシステムを構築したブランドや企業を超越することこそが「インターネットビジネスがやり残したこと」なのです。

そして、ナデラ氏は超越する方法を知っているはずです。なぜなら、この分野で最大のプレーヤーはMicrosoftであり、最近、750億ドルを投じてアクティビジョン・ブリザード(世界で最も人気のあるゲームのメーカーで、驚異的な観客数を誇る)を買収するなど、多数の買収を完了させているからです。このような活動により、Microsoftは世界第3位の巨大ゲーム会社となりました。ここに、対企業における優位性を結合することで、Microsoftはメタバースにおける教育、仕事、遊び、その他充実した生活を包括するゲーム化されたビジョンを描こうとしています。

最近の Financial Times 紙上でのインタビューで、ナデラ氏は次のように述べています。

「メタバースとは、本質的にはゲームを創ることです。ゲームの中には、ヒト、場所、モノのすべてを入れることが可能で、そのすべてが、相互に結びつきます。私たちがメタバースのために構築しようとしているシステム面でのアプローチは、基本的にゲーム構築の民主化です。私たちは、あらゆる空間を構築し、ヒト、場所、モノをデジタル化し、身体的な存在感をもって交流したいと考えるすべての人に、この技術を提供します。

私にとっては、得意なゲーム作りで、次世代プラットフォームを構築する承認が得られるのです。それは本質的に次世代のインターネット、つまり「存在の肉体化」に他なりません。今日、私はゲームをプレイしていますが、ゲームの中にいるわけではありません。しかし今後、私たちはメタバースを通じて、夢を見始めることができます。会議室であなたと一緒にミーティングをするように、私も文字通りゲームの中にいることができるのです。このメタファーとテクノロジーは、さまざまな文脈で現れるでしょう」

自分ルネッサンスの時代へ

メタバースを構築するほどではないにせよ、ブランドは、新たな親和性、存在感、エンゲージメントを促進するために、この空間でプレイする準備を整えるべきでしょうか。

実際、メタバースの可能性を検証しているブランド例を挙げるのは難しいことではありません。ナイキ(RTFKTを通じて)、アディダス(BAYCとのコラボレーション)、バレンシアガ、グッチ、H&Mなど、多くのブランドが限定コレクションやコラボレーションアイテムを開発し、メタバース、ひいてはNFT市場に進出しているのを私たちは目にしています。

これらのファースト・ムーバーの最も興味深い点は、それぞれがエクスプレス・アリーナに属しており、そこではアイデンティティを表現することがプレミアムとなることです。ほとんどゼロからアイデンティティを構築し、コミュニティを形成する手段として、これらのブランドが先手を打ったことは理にかなっています。モルガンスタンレーは、2030年にはラグジュアリーブランドの売上の10%(約50,000百万ユーロ)がメタバースから直接もたらされると、既に予測しています。

※エクスプレス・アリーナに関しては、こちら(https://www.interbrandjapan.com/ja/category/arena-collectives/arena_express)をご覧ください。

メタバースへの対応は、ブランドにとって、より現実的な検討課題であり、機会でもあります。パンデミ

ック以降、時間や空間に対する人々の認識は変化しています。これはパンデミックのトレンドというよりも、私たちが経験している幅広いイノベーションの一部であり、パンデミックは消費者に新しいテクノロジーをより迅速に採用するよう促したに過ぎません。インターブランドは、最近のレポートで、商品やサービスの近接性と存在感に関する顧客の期待が変化していることを明らかにしています。メタバースは、個人が距離を越えて交流し、つながる方法を再構築し、空間、時間、期待を再形成し続けるでしょう。メタバースが生み出す手軽さと近接性は、私たちの移動手段にどのような影響を与えるのでしょうか。UberEatsがMaaSモデルを変革することでデリバリーフードを標準化したことを考えると、ブランドにとっては、特に時間の経過とともにメタバースを前提とする新しいライフスタイルが具現化していく中で、サービスのあり方を見直し、顧客へのアプローチ方法を再定義する機会となるでしょう。今日、競争のように見えるものは、この空間の出現によって根本的に再定義されるでしょう。なぜなら、結局のところ、私たちがどのように移動するかは、私たちの生き方に直接影響を与えるからです。

オーストラリアの哲学者、デビッド・J・チャーマーズは、新著「リアリティ+」で、本当の問題はフォーマットの変更よりも、現実とは何か、そしてどの概念が我々の存在と自己意識の中心にあるかという基本的な考え方にあると論じています。メタバースがどのようにわれわれを形づくるにせよ、どのようなバージョンが構築され、どのブランドが支配的になるにせよ、没入型デジタル空間の存在は、私たちの交流のあり方を変え、私たちとブランドとの関係性も変えるでしょう。

これは、仕事、学校、医療など、特定の文脈で考えたときに最も具体的になります。デジタルを介する空間で、私たちは本当の人生を送り、本当の自分になります(たとえ、その自分が現実世界とは異なっていたとしても)。データプライバシーは、重要な問題であり続けるでしょう。「監視されている」ことに対して懐疑的であったり、規模の拡大のために自分や本能が商品化されていると感じられる空間で、どうすれば有意義な人生を送り、最も自分らしくいられるのでしょうか。インターブランドは、Heartbeatプラットフォームを通じて、私たちを人間たらしめているもの、人々がどのように、そしてなぜ考え、感じ、行動するのかという本質を探っています。メタバースは、私たちの交流に直接的な道義的・行動的影響を及ぼすでしょう。

Heartbeatは、私たちが何を望み、何を必要としているのかを思い起こさせるインスピレーションとなることでしょう。人間の真実をよりよく理解するための、思慮深い人生観です。

動くべきタイミングは?

メタバースを構築しているブランドはさておき、ほとんどのブランドは、どのように(そしていつ)メタバースでプレイするかを考える必要があります。

2000年代初頭、NokiaやKodakのような強いブランドが、急激なデジタル成長に対する適応の遅れによって、Best Global Brandsから姿を消すのを私たちは目の当たりにしました。このメタバースという新しいコンセプトは、パラダイムを変革する新しいターニングポイントになるのでしょうか?

そこがブルーオーシャンであろうとレッドオーシャンであろうと、リスクとチャンスは一対の存在です。メタバースは、安全性とリーチの点で限界がどこにあるのか、まだわからない成長中のエコシステムです。しかし、それがイノベーションを開く扉であり、ブランドがオーディエンスとつながるための新しいプレイグラウンドであることは、もう明らかでしょう。

Appleは、パソコンや携帯電話のレースで1位になったわけではありませんが、その野心によって世界で最も価値のあるブランドへ成長しました。Googleは、インターネット検索エンジンを開発したわけではありませんが、今日、私たちの生活はそのサービスなしには成り立ちません。その軌跡は、メタバースに関する重要な教訓を導き出すのに役立つでしょう。ユーザーの真のニーズを満たし、それを先取りすること。ビジネスのアイデアを生み出す質の高いインサイトを得ること。そのすべてを記憶に残る体験に変えること。やるべきことは、無数にあります。そしてその第一歩はIconic Movesを推進することにあると、私たちは考えています。

※Iconic Movesに関しては、こちら(https://www.interbrandjapan.com/ja/article/brandchannel/iconic-move.html)をご覧ください。

Translated and edited from “INSIDER VIEW – Enter the Metaverse”: https://interbrand.com/thinking/enter-the-metaverse/