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いかに、“事なかれ主義”から “リーダーシップ・スタンス ”へシフトするか

インターブランドは、本年のベスト・グローバル・ブランド・レポートの序文で、「今日の最も重要かつ価値あるブランドとは、ブランドを単なる成長の原動力と捉えるのではなく、ブランド力と社会的責任のバランスをとることで、リーダーシップを発揮するブランドである」という意見を発表しました。本稿では、ベストグローバルブランドのデータ、ベストインクラスの事例、そして私たちがクライアントに提供している独自のサービスの紹介を通じて、「正しくやる(doing things right)」ことと、「正しいことをする(doing the right things)」こと、双方の可能性と課題を探っていきます。

キャンセルカルチャーの時代におけるブランドリーダーシップ

「ブランドとはリーダーシップである」という概念は、今の時代に合っているように思えますが、私たちはその実際を確認するために、消費者が意思決定において、環境や社会的課題にどの程度敏感であるかを定量的に調査を行いました。その結果、 90%以上の人が環境・社会課題を意識し、関心を持っていること、そして環境・社会課題にしっかり向き合うことが、顧客のニーズを満たし続けるブランドであるための重要な要素であることが明らかになりました。ブランドのインテグリティ(整合性)*とエシックス(倫理観)(Ethics)は、社会に良い影響を与えるという認識とともに、業界を超えカスタマージャーニーのすべてのステップにおいて、重要な選択のドライバーとなっているのです。

これは納得感の高い結果である一方で、こうした話題が消費者の関心を集めていること自体は、「目新しいニュース」ではありません。にもかかわらず、なぜいまだに、このような明確で説得力のあるスタンスを持つブランドを挙げることが難しいのでしょうか。

かつての優れたブランドが、論争を避け「商業的利益」に重点を置いていたことが、その理由かもしれません。しかし、安全な沈黙はもはや報われず、今日、中立性はリーダーシップの欠如とみなされます。ブランドは、「十分なことをしていない」という批判と、「間違ったことをしている」という批判の間で、ストレスにさらされています。このストレスが、私たちが「事なかれ主義(Mitigation Mindset)」と呼ぶもの、つまり、間違いではないが特別であるには何かが足りない、という姿勢につながるのかもしれません。

では、この「事なかれ主義」から「リーダーシップ・スタンス」へシフトするためには、何が必要なのでしょうか?

インテグリティ(整合性)を核に

世界の継続的かつ加速的な変革は、非常に「良い」結果をもたらす可能性と同時に、非常に「悪い」結果ももたらす可能性を持っていることに、誰もが気付き始めています。この流動的で急速に変化する状況において、あるべき組織倫理の体制を構築することは、すべてのステークホルダーに対して一貫した責任ある行動をとる能力を、ブランドにもたらします。

このような体制を作るには、組織文化や価値観、さらには意思決定のシステムの調整が不可欠です。今日、組織倫理と、それを測定可能なものとして信頼できるものへ変換することが、ブランドの評判の中核となり、企業が社会に受け入れられるための基盤となっています。テクノロジーがそうであるように、本来、社会の安全装置となるべき法律や政策などが整備されるよりも前に、新しいイノベーションが生み出されるような動きの速い世界では、企業のインテグリティ(整合性)と、その結果もたらされるブランドの信頼が、競争上の優位性として浮上します。

このような状況の中で、Microsoftは「誠実さ(Integrity)」という繊細かつ力強いスタンスでブランド力を高めています。これは、人間らしさを損なうことなく、むしろ人間らしさを高める製品への信頼性向上のための集中的な取り組みです。2022年の同社の Impact Summary(統合報告書)で、CEOのサティア・ナデラ氏が「我々のアクションは、新たな問題を作り出すのではなく、世界の問題に対処することと一致しなければならない」と記しているとおり、Microsoftは、社会における自らの役割を強く認識し、問題の一部ではなく、解決策の一部となることを明確に意図しています。

今日、Microsoftのように、最も進歩的なリーダーシップを発揮できるチームは、その結果が誠実であることを保証するために、自身の意思決定を信頼に値するとナビゲートできる確かな手段を持っています。誠実さと倫理的な意思決定の強固な基盤が、ブランドへの信頼を高め、ブランドとより広いステークホルダーの価値を同時に向上させる——。Microsoftは、まさにそれを体現しています。

では、これからのリーダーたちは、いかにすればブランドを資産として活用し、かつ商業的成功を収めることができるのでしょうか。

*Integrity: integrityを誠実さと訳すことで、integrityにおける大きな目的である相反する誠実さを求めるステークホルダーを包含する姿勢の重要性、という概念が抜け落ちることを懸念しており、本稿ではカタカナで表記すると同時に、日本語としては整合性を充てています。


ブランドのエシカルフレームワークの構築をお考えですか?

Interbrandは、組織倫理に関するアドバイザリーファーム、Principia Advisoryと提携しました。私たちは、Principia Advisoryと協働し、先進的な企業が最も困難な倫理問題を解決し、組織の目的に最適化されたレガシーレベルの変化を生み出すための支援を行っています。


気候変動への取り組みを、プッシュ型からプル型へ

Teslaは、2022年のグローバルブランドランキングで2番目に急成長したブランドです。前年比32%増、48,002百万USドルの価値を持ち、環境と体験の面で期待される変化を最も良く体現している優れたブランドのひとつと言えるでしょう。Teslaは、地球を救う競争において、他企業がまだ利用していない以下2つの真実を企業活動に反映させています:

1. 気候危機は、第一次産業革命に匹敵する経済変革をもたらすでしょう。Credit Suisseは最近の調査報告書で、今後予定されている気候変動に関する法律は、「今後10年以降のアメリカ経済に大きな影響を与えるだろう」とし、大企業にとってこの法律は「リスク軽減から機会獲得へと決定的に物語を変える」と指摘しています。同行は、この法案によって米国経済だけで1.7兆ドル(約1,000兆円)のプラスになると予測しています。

2. Interbrandは、UNDP(国連開発計画)およびBest Global Brands Top100に選出された企業の多くと協力し、世界12都市、6大陸、50以上の国籍を持つ1,000人以上の人々が参加する気候変動に関する世界最大の共創イニシアチブを主導しています。 私たちの最初の発見は、多くのブランドが消費者を混乱させたり、疎外するような言葉でコミュニケーションする傾向があることを示しています。それは、顧客の離反を招きかねません。

グリーンエネルギーへの移行の加速を使命とするTeslaは、最も適切で望ましい方法でソリューションを提供することで、このような機会を最大限に活用しています。つまりTeslaは、Appleがテクノロジーに与える影響と同じように、気候変動という物語を「プッシュ型」から「プル型」へと変化させているのです。Teslaには、特にCEOであるイーロン・マスク氏の活動をめぐる論争がないわけではありません。しかし、こと気候変動の課題に対しては、明確な組織的スタンスを完璧に実行することで、リーダーシップを確かなものにしています。そして、正しい選択を最も望ましい選択とすることで、Teslaは気候変動問題を核とするブランドに対する期待をリセットし、他のプレイヤーに基準を示すと同時に、ブランド価値の水準を高めているのです。


ブランドを、時代が求めるリーダーへ高めたいとお考えですか?

Interbrandは、UNDPと協力し、ユニークな新サービスをクライアントに提供しています。UNDPが持つ気候、自然、エネルギー、持続可能な金融に関する比類なき専門知識と、Interbrandが持つグローバルブランドを構築する卓越した専門知識、さらには最も適切な成果を最も俊敏な方法で生み出すHuman Truthsチームの高度な専門知識を活用し、人と地球に報いる、転換期に適したリーダーであることの意味を高めていきます。


インクルーシブデザインの可能性

本年のグローバルブランドランキング100において、Nikeは、前年比18%増、ブランド価値50,289百万USドルで、初のトップ10入りを果たしました。スポーツを通じて人生を謳歌するNikeのインクルージョンに対する姿勢は、時代の流れを捉え、時代遅れの理想や無関心、過去の成功体験によって多くのブランドが知らず知らずのうちに蔓延させてきた格差という「現状」とは正反対に位置しています。

元パラリンピアンのサラ・レイナートセン氏は、長年、医療用の特殊な靴を履かなければならず、そのために「疎外」を感じていたと言います。サラ氏は、NikeのFlyEaseイノベーションチームのデザイナーでもあり、Nike初のユニバーサルデザインのシューズを開発しました。ストラップや紐を使わないFlyEaseラインなら、履く人は足を入れて押し下げるだけでいいのです。サラ氏はこう語っています: 「“その靴は、障がいがあるあなたのためのものです”と言われることにうんざりしていました。FlyEaseは、障がいのある人も含めたすべての人のためのものです」。マーケットには多くのスリップオンシューズがありますが、FlyEaseラインは、ファッション性と障がいを持つ人々のニーズの両方を考慮してデザインされています。

Go FlyEaseは、ユニバーサルデザインが実際に誰にとってもより良い製品につながることを証明するものです。2021年2月の発売時にGoはすぐに売り切れてしまったために、ブランドは、障害者コミュニティからの批判にも直面しました。しかし、ナイキは意図的に希少性を画策したわけではなく、発売時には数万足が供給出来る体制を整えており、不足に素早く対処しました。


Interbrandのインクルーシブ・デザイン委員会は、あらゆるブランド体験における障壁を取り除き、デザイン・デバイドを解消するために、パートナー、クライアントとともに活動しています。カスタマージャーニーのすべてのタッチポイントは、人生をより良いものにする可能性を秘めています。より広い範囲の人間のニーズに対応するブランドは、その努力の結果、いくつかの重要なメリットを享受し始めています。Interbrandは、私たち自身、私たちの社会、そして私たちの経済の将来を見据え、クライアントがインクルーシブな取り組みにおいて「受け身」の姿勢から「能動的」に変化することを支援します。


Chris Nuruko
Global Innovation Officer
Interbrand

Translated and edited from “How to move from “Mitigation Mindset” to “Leadership Stance””: https://interbrand.com/thinking/how-to-move-from-mitigation-mindset-to-leadership-stance/