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Voice of Japan 01
CSVxブランドの成功の最強方程式!

社会貢献活動の最強方程式は、親和性 x 共鳴性 x 信頼性

  • ブランドとの親和性 :そのブランドが信じる正しさは何か?それはなぜか?がぼやけるとブランド力は発揮されない。
  • 自分ごと化:社会貢献活動は同じ志を持った潜在顧客を惹きつけるマグネット。
  • ブランドの信頼性:信頼性の高さは「量(知名度)」より「質(本気度)」で顧客に伝わり、付加価値への納得感を生む。

イントロダクション

Z世代をはじめとする若い世代は気候変動や社会課題に関心が高い、と言われ始めてから大分経ちます。そして、実際にこの生活者起点の新しい価値観の変化に応じて、企業が社会課題解決のための活動をする、といったケースも一層身近に感じられるようになってきました。そうはいっても、当のブランドにとっては、テーマは壮大、ステークホルダーは多様、連携は複雑、ゴールも不明瞭、そのくせ実購買層はまだ少ない、という悩ましいトピックであり続けています。

「社会貢献をしたい、地球環境に負荷をかけたくない。それも毎日の暮らしの中で、それほど時間やお金や情報探しの労力をかけずに。」という生活者のニーズ。ブランドの力をどう生かせばこれに効果的に応えることができるのでしょうか?
インターブランド・ジャパンでは、生活者オンラインコミュニティRIPPLEを通して、人口動態を反映した生活者300名と継続的な対話を行い、日々変化する外の世界に合わせて人々の内面はどんな風に変化しているのか理解を深めてきました。今回は環境・社会課題への貢献活動(以下「社会貢献」)について、生活者は企業に対してどんなイメージを持っているかを紐解きながら、ブランドを活用した貢献活動デザインのヒントを探ります。

『一般人としては、なかなか社会貢献する機会や、できる活動自体が少ないと思いますが、社会貢献活動をしている企業の商品を購入して応援することはできます。』(社会貢献活動をしている企業としてプリウスを想起した30代男性)

企業別社会貢献イメージシェアからみる成功へのヒント

コミュニティ参加メンバーに、『社会貢献や環境を考えた活動をしている』と聞いて思いつく企業・ブランドと、そう思った取り組みを聞いたところ「社会貢献」イメージシェア首位に挙がったのはサントリーで、二位以下を大きく引き離しました。実は順位自体よりも面白いのは、ブランドの想起数とその想起理由にある傾向がみられたことです。想起の多いブランドほど、貢献活動がブランド戦略の中枢に近く位置しており、コミュニケーションにブレがありません。どういうことか、ブランド名と取り組みを具体的に挙げながら説明していきます。

【図表1】質問:“社会貢献や環境を考えた活動をしている”と思ったことのある企業・ブランドを教えてください。また、どういった取組からそのように感じましたか?

1. ブランドストーリーとつながる社会貢献活動であれ

イメージシェア首位のサントリーにおいて最も特徴的だったのは、「水と生きる」というブランドプロミス自体が生活者にキャッチコピーとして広く知られていることです。同社の社会貢献、というと実際の水資源や環境保護といったそれぞれの活動とこのプロミスとが同時に想起されており、一連のストーリーのつながりが「水と生きるために環境を守る、水にこだわりのある会社がつくる飲料品ならば、きっとおいしいだろう」というシンプルな連想を生み、結果としてコア商品の価値までも一緒に引き上げる、という好循環を生んでいます。環境という抽象的で広大なホワイトスペースにおいて「水」という身近かつ根源的な自然要素を自社のものと紐づけた 、ブランディング先行者としての成功という面も見逃せません。

『水と生きるという商品開発とセットになった森林や水源地保護に共感した。』(サントリーを想起した40代男性)

2位のトヨタ自動車は予想通りプリウスからの想起が数多くありました。しかし単体の商品ブランドに留まらず、環境に配慮した量産ハイブリッド車を世界に先駆けて作り、新カテゴリーを開拓した先見性や、環境負荷を社会全体で解決するために特許をオープンソース化したリーダーとしての姿勢が一貫性のあるブランドストーリーとして受け入れられ共感を生んでいるのが特徴です。生活者にとって商品ブランドと企業ブランドとの境目は想像以上に曖昧であり、社会貢献活動はこのブランドの両端を橋渡しし好循環を生む強力な武器となることを示しています。

逆に、想起数がばらつきはじめる4位以下からはいくつかの注意事項を学ぶことができます。ここでは、たとえブランド自体の好意度は高くても、挙げられた貢献活動に一貫性や独自性がみられない様子や、ブランドの核となるイメージと結びつかない活動を行っている様子がうかがえます。またフェアトレードや途上国支援など、活動自体が誰からみても「絶対的な正義」である場合、支援している活動内容は覚えていてもブランド名が思い出せないという、とてももったいない例も見受けられました。

『ブランドは思い出せないのですが、チョコレートや珈琲。フェアトレードの食品は子供たちや女性の自立のためのものを購入しています。』(30代女子)

ブランドと社会貢献の親和性においては、そのブランドが 信じる主観的な正しさは何か?なぜそれをやるのか?がぼやけると共感を生む活動にはなりきれず、ブランド力が発揮されないことが分かります。

2.「自分ごと化」された社会貢献は、価値観を同じくする潜在顧客を惹きつける

ブランド力の違いと生活者に響く貢献内容の関係はどうなっているのか?例としてサントリーと無名のブランドを比較してみました。社会に良い活動をしていない素の状態で、ペットボトルの水500mlが100円でサントリーと無名ブランドからそれぞれ販売されているとします。その上で両ブランドが4つの違ったタイプの社会貢献をした場合、それぞれの貢献をした水に対していくら払って良いと思うか、その理由も併せて尋ねてみました。
100円の初期値に比べて高プレミアムが付く活動内容は、両ブランドとも動物愛護、水資源や環境保護、寄付、リサイクル・ラベルレスという順でした。「ブランドストーリーとつながる貢献活動たれ」と高らかに宣言した直後のちゃぶ台返しになるわけですが、ここでは興味深い現象が確認されています。ごく少人数の動物好き生活者が自分の興味関心の熱量に比較するかのように、他の活動よりかなりの高額プレミアムを付けた結果、水と関係が少ない動物愛護活動に最高値が付いたのです。

『写真撮影が趣味で鳥なども撮影するのですが、撮影した鳥について検索すると上位にサントリーの愛鳥活動というサイトが出てきます。そこでサントリーが環境についてどういう思いで活動しているのかということを知り、水も含めた環境の情報を受け取ってサントリーの活動に共感したという次第です。』(30代男性)

差別化の難しい水のような商品であっても、社会貢献をきっかけに志を同じくする潜在顧客を熱狂的に惹きつけたり、共鳴する顧客の経験価値を向上することができることを示しています。
逆に、リサイクルや簡易パッケージ、脱プラスチックなど、どのブランドでも手掛けるような活動は「コモディティ化された貢献」であり、やらなければマイナスになるものの、やってもプラスの差別化にはつながらない活動であるといえます。もちろん、海辺に住んでいる生活者にとっては重要な課題なので「誰に向けた活動なのか」 はここでも欠かせない視点になります。

3.ブランドの信頼性の高さが生む付加価値への納得感

最後に、ブランド力と実際の購買意欲にはどんな関係があるのか?ということで、先述の両社が4つの内容の社会貢献をした場合に、それぞれの水をいくらくらいで 購入したいか、生活者に付加価値を値付けしてもらいました。
サントリーは社会貢献なしの100円の初期値に対し、貢献ありの水には平均値で105円から117円のプレミアムがつけられた一方で、無名ブランドでは動物愛護を除いて軒並みベース価格の100円を割り込み、リサイクルやラベルレスといった活動に至っては92円というシビアな結果となりました。
無名ブランドでは実際に貢献活動しているかが疑れやすく、これを払拭しプレミアムを払うに値すると思わせる情報をブランドから積極的に発信していくことが求められています。

知らないブランドでも調べてきちんとした企業であるとわかればよいが、わからない場合は活動自体の価値も疑わしいと感じるのでそういうところにプラスしてお金をかけられない。(40代女性)

ブランドの信頼性の高さ、というと社会貢献は大企業だけのものか?と思われることがあるかもしれません。しかし少数ながらも名前があがったブランド、マザーハウスやPeople Tree などでは、ブランドストーリーと切り離すことができない質の高い信頼性が寄せられています。この「量(知名度)」より「質(本気度)」で測られるブランドの信頼性の高さが付加価値に対しての納得感を生むカギとなります。
また、ブランドの信頼性、なんていうとあって当然で差別化にならない、と今更感があるかもしれません。しかし社会貢献で生活者に提示されるべきは企業の根源的な価値観であり、顧客もそれを重視し始めてきているといえます。

CSVxブランドの成功の最強方程式!

具体例を特定ブランドへの言及が多くなってしまいましたが、いかがでしたか?
ブランドを梃子にして社会貢献へ切り込む場合には、この「親和性 x 共鳴性x信頼性 」の方程式を ぜひ思い出してみてください 。]


ウィルソン まち子
C Space コンサルタント

東京大学建築学部、グラスゴー美術学校卒業。建築、イベントやステージデザインなど多様な空間デザインを手がける。デザイン戦略を手がけたプロジェクトの中で C Space に遭遇し、2016年よりインサイトコンサルタントとして C Space ロンドンオフィスに参画。2019年からインターブランドジャパンにてC Space 機能を移行させ日本企業のCustomer Inspired Growthを推進する。