We give our clients the confidence to make Iconic Moves

Voice of Japan 16
老後「君たちはどう生きるか」

3行でまとめると

  • 老後を想像したくない、想像できない、想像しても仕方ない
  • 体はどうあれ、心や精神のワクワク感、いきいき感を重視
  • AIやロボットに体の機能的サポートのみならず、精神的サポートを望み、人とのストレスからの解放を望む

イントロダクション

日本の総務省統計局によると、65歳以上を「高齢者」と定義すると、2024年現在、日本の人口の29.3%が高齢者であり、2045年には36.3%になる見込みです(※1)。すなわち、ほぼ3人に1人は高齢者。ちなみに、現在、日本は高齢者率(国の人口に占める高齢者の割合)世界No.1です(※2)。また、日本人の平均寿命は、男性81.09歳、女性87.14歳(※3)。ということは、65歳、晴れて高齢者になった後、それをここでは「老後」と呼ぶと、男性約16年、女性約22年の老後が私達を待っています。そこで、将来、日本の人口の3割から4割近くを占める高齢者として存在することになる生活者は、老後「君たちはどう生きるか」と考えているかを、生活者オンラインコミュニティRIPPLEを使い探ってみました。

インターブランド・ジャパンでは、生活者オンラインコミュニティRIPPLEを通して、様々な年代からなる生活者300名と継続的な対話を行い、日々変化する暮らしの状況に合わせて人々の内面はどのように変化しているのか、理解を深めています。

※1:「人口推計」(総務省統計局)2024年9月15日現在推計より作成

1.自分の老後を想像するのは、意外に難しい

まず、ストレートにRIPPLEで理想の老後を尋ねてみました。その結果、「自然の中でのんびり過ごしたい」「趣味に没頭したい」という回答が多く得られました。

ハイキングが好きなのですが、老後は周りにあまり迷惑にならない程度の軽登山はしたいと思っています。また、写真を撮るのが好きなので、自然の写真を撮っていきたいです (男性30代)

旅行が好きなので海外旅行に行くのが夢です(女性20代)

はて、それは、「今、あなたが仕事をしないで済んだら何をしたいか」への回答ではないかと見間違うようなものが多くありました。

というのも、介護施設や老人ホームでの生活、体の不自由な寝たきりの自分を描く人が、ほぼいないからです。「理想の」と聞いたので、心身ともに健康でいることが老後の理想像だからとの解釈ができますが、もう少し体が弱っているリアルな自分の理想を想像しないのだろうか、体が不自由になっても、それを前提とした理想像は描けるのではないでしょうか。しかし、そのような老後像は1サンプルも出てきませんでした。

つまり、人はリアルに自分の老後を想像できないのではないかと考えました。例えば、「将来何になりたいか」「お医者さん、そのために、大学に行って・・・」など、ポジティブな道のりの自分は描きやすいが、体が不自由になっていく、ネガティブな道のりの自分は想像し難く、同時に、無意識に想像したくないと言う意識が働くからではないかと考えました。

もう一つの仮説として、自分の体のどこが、いつから、どう悪くなるか、同居人や周りの人はどういう状況か(病気になる、いなくなる等)、そして経済状況はどうか、その時代の公共的あるいは私的サービス提供の状況はどうか等。組み合わせが無限にあり千差万別。どの人のロールモデルが自分に近くなるか、予想しがたいのではないかと推察しました。

2.ボロは着てても心は錦

次に、皆さんにもっとリアルに具体的に老後を描いていただきたいと考えました。もしも老後に体や精神の状態が低下すると仮定した場合、生活者の意識はどのように変化するでしょうか。そして、企業やブランドはどのように支援することができるのでしょうか。RIPPLEのコミュニティメンバーには老人ホームや介護施設に住むことを仮定していただき、どんなブランドの老人ホームや介護施設に入りたいかを聞いてみました。多かった回答を以下の表にまとめました。

どれほど身体が不自由になっても、心や精神は健康でいることを信じ、ワクワク感があり、楽しく、生き生きと暮らす自分を想像しています。

介護ケアは、身体ケアに意識や予算がいきがちですが、それは第一に重要としても、もっと心や精神に注目し、前向きに、ある意味攻めの刺激を与え、心や精神を十分に自分らしく機能させていくことが、老後の幸せを実現することにおいて重要な要素になるのではないでしょうか。

3.しずかちゃんよりドラえもんに頼りたい

もう一つ、興味深い発見は、多くの人がテクノロジーの進歩に大きな期待を寄せていることです。自分の体の機能は無くなってきても、テクノロジーがその不自由な体を十分に補い、自分の心の自由を守り、自分らしく暮らせる心のケアまでもテクノロジーに期待しています。癒しロボット、介護ロボット、介助ロボット、ペット型ロボットあるいは話相手ロボット、健康管理ロボットなど。

いやむしろ、介護は人よりロボットに行って欲しいと望む傾向が見られます。ロボットの方が、人より機能的に高度で、学習により自分に最適な介護をチューニングできる。人同士では、介護する方、される方、どちらも我慢を強いるしかない状態がある。この人嫌だなと思っても、人は簡単に変更できない。言いたいことがあっても、嫌なことはなかなか言えない。しかし、ロボットだったら、機能や性格をチューニングし、人格さえ、今日の気分で、自分に都合よく容易に変更することができるかもしれない。すなわち、テクノロジーが、高齢者の体と人とのストレスを解放してくれることを期待しています。

10年で、5年で、1年で、世界が一瞬にして変わってしまうほどのテクノロジーの進歩を体験してきている私達は、今までの人類史上最高に、近未来のAIやロボットの力を信じているのかもしれません。

4.見たくないものに蓋をしてみる

さらに注目すべき点として、多くの回答が、自分が年をとっても心や精神は元気なままであることが前提となっていたことです。

実際には老人の機能の低下には、身体的なもの以外に、心や精神の低下があります。認知症のみならず、鬱病、せん妄、幻覚妄想など。記憶力や判断力など物理的に脳内の機能が低下するだけでなく、自分ができないことが多くなることの焦りや悔しさ、周りの長年親しかった人が亡くなっていくことの寂しさなど、高齢者が心理的に落ち込む要因は周りに転がっています。

厚生労働省のデータでは、精神疾患を有する外来患者数の約37%、入院患者数の約62%が高齢者です(※4)。

高齢者になって、自分が精神疾患になるイメージが湧いている人はどれだけいるでしょうか。どんなことがあっても達観し、ニコニコ笑っている、きんさんぎんさん(※5)的な穏やかな老人像は、実は稀有な存在なのかもしれません。そう言えば、やたら怒りまくる、いつも不機嫌な老人も町内に一人はいるような気がします。人は、自分が精神疾患になっているイメージを想像したくないから、想像できないし、想像しないのかもしれません。

5.では、私たちは老後をどう生きるかープレエンディングノートー

では、そんな、リアルに想像しにくい老後に、どう向き合えば良いのでしょうか。

昨今、死後の後始末のための遺言のようなものとして「エンディングノート」が推奨されていますが、その前の高齢者として生きている間の希望や要望も前もって記しておくのはどうでしょうか。

自分の身体が機能しなくなってきたら、精神が機能しなくなってきたらを想像し、自分の暮らし方や、行き先(施設)を数パターン考えて記します。そして、そこには、自分の趣味、嗜好、思考、癖、家族、財産、居住場所、友人関係も記載します。自分の希望や要望をできるだけ反映させたプレエンディングノートが、自分の高齢者としてのQOL(Quality of Life)を向上させ、自分と周りの人々を少し幸せにするかもしれません。

参考文献


Interbrand Associate Director
岡本カヨ Kayo Okamoto

広告制作会社を経て、2001年にインターブランドジャパンに参画。外資系消費財メーカーや大手住宅メーカーなどのブランディングに携わる。