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Voice of Japan 05
無意識の束縛からの解放

3行でまとめると:

  • 多様性ある社会の実現へ向けた動きが本格化し、これまでの男女の役割分担への意識や、異性に求めることの違いが混在する過渡期
  • 特に若い世代においては、容姿や性格、言動など男女の区別が無くなりつつあるユニセックス化が起きている
  • 様々な固定観念が残る日本社会では、性別や年齢に囚われない装いや前向きな行動を促し、「自分らしさ」が尊重されるコミュニケーションや体験が求められている​

イントロダクション

Global Gender Gap Report 2022(注1)による日本のジェンダーギャップ指数(男女格差)が、先進諸国の中で最下位の116位/146カ国となり、ますます社会課題の一つとして取り上げられている昨今、世界ではダイバーシティが更に進化した概念である“Diversity, Equity & Inclusion=多様性、公正性と包摂性”が社会や企業カルチャーのあるべき姿として常識になりつつあります。
また、世界幸福度ランキング2022(注2)でも、日本の幸福度は、先進諸国の中で最低順位(145国中54位)から脱することができず、特に「人生評価/主観満足度」が非常に低い結果となっています。世界幸福度報告では、主観的幸福を説明する要因として、「一人あたりGDP」と「健康寿命」の2つの客観要因と、「社会的関係性」「自己決定感」「寛容性」「信頼感」の4つの主観要因を測定していますが、中でも「社会的関係性」「自己決定感」「寛容性」が低いことが、相対的に日本のランキングを下げているようです。

そんな世界から大幅に出遅れてしまった日本では、政界やビジネス上でもクオータ制の導入が検討されるなど、ようやく多様性の重んじられる社会の実現へ向けた動きが本格化し始めました。少しずつではありますが、そうした風潮の変化や女性の社会進出を背景に、これまでの男女の役割分担への意識や、それぞれに求める「らしさ」も変化してきているのではないか?という疑問が湧いてきます。
「らしさ」とは?そこには年代・性別問わず「らしさ」に対する意識の違いが混在します。意識的に、或いは無意識に男性の目を意識した女性像を演じるタイプから、性別を意識せず自己を解放し、より自分らしく自己表現をするタイプが増えているようです。

インターブランド・ジャパンでは、生活者オンラインコミュニティRIPPLEを通して、様々な年代からなる生活者300名と継続的な対話を行い、日々変化する暮らしの状況に合わせて人々の内面はどのように変化しているのか、理解を深めています。
「らしさ」が多様化する中、今回は、現在の生活者の男女の役割に対する価値観とその背景にある深層心理を深堀し、そうした意識の変化や大切にしたいことの違いから、“無意識の思い込み”を解放するコミュニケーションや体験サービスのヒントを探ります。​

男女の役割分担の意識の変化​

コミュニティメンバーの男女それぞれに、男性が求めている「女性らしさ」と、女性が男性に求められていると思う「女性らしさ」とはどんなところにあるか、正統派から個性派まで様々なタイプの女性像のイラストを参考に、「女性らしさ」を感じるポイントはどんなところあるか聞いてみました。その理由や心理的イメージの回答から考察した結果、年代や性別問わず、これまでの男女の役割分担への意識や、異性に求めることの違いが混在する過渡期であることが分かりました。

男性の回答は、「従来の固定観念的な女性の役割を求めている」声がありながら、「女性を尊重する、或いは中立的に向き合う」「個性を尊重する」回答が意外にも多く、女性の回答は、「従来と異なる女性像を描いている」「特に男性を意識して行動していない」「多様性のある世の中を実感している」声よりも、「固定観念に縛られている」「問題意識を感じている」「男性の固定観念も上手く受け入れて対応している」といった声が多く、むしろ女性の方が、男性に求められる女性像や役割について、固定観念的なイメージで捉えている部分があることが見えてきました。

男性が女性に求める女性らしさは、やはり清楚感だとか優しさ、料理上手といった固定概念での女性っぽさを指すことが多い (40代女性)

誰しもが偏った女性らしさに縛られることなく自由な服装や容姿、生き方をされたら良いのではないかな?と思います。むしろ好きな格好、生き方をするべき (40代男性)

「女々しい」「男勝り」は、もう使えない?

日本には、男女それぞれについてネガティブな印象を形容する際に使われる「女々しい」や「男勝り」という言葉があるように、男性は女性より強くリードする立場を取らなくてはならず、女性は出しゃばらず、男性を立てる振る舞いが求められるという意識が今でも残っています。

一方、そもそも「男性らしい」「女性らしい」とくくる考え方自体が古いという声もあり、特に若い世代においては、容姿や性格、言動など男女の区別が無くなりつつあるユニセックス化が起きているようです。

自分の子どもたちを見ていても、自分が子どもだった頃に比べてジェンダーレスが定着してきているように感じます。(40代女性)

過去の女らしさや男らしさといった物差しで見てみると、男性の女性化、女性の男性化という現象が起きているのではないか?(40代男性)

性別や年齢に囚われない「自分らしさ」へ

コミュニティメンバーからの声を更に紐解いて考察していくと、性別に求められる「らしさ」に対する意識の他、女性は「年齢」にも縛られている傾向が見えてきました。「若作りに見えすぎず、流行を取り入れ」「必要以上に頑張っているように見られたくない」「年齢をわきまえた、年相応なファッション」といった多くの回答から、日本では女性の「若さ」に価値が置かれる傾向にあることを背景に、「年齢」が自己表現や行動を制限してしまっていることが浮き彫りになりました。

そんな中でも、まだ少数派ではありますが、物事の選択や行動においては「自分らしく、心が前向きになることを大切に」「同調圧力には屈せず、物事の本質を見極めたい」「常に色々なことにアンテナをはり、挑戦し続けること」など、性別や年齢を超えて「自分らしい」装いや振る舞い、物事の選択を追求している層も現れてきました。

度を外さない程度に流行や若い人とも馴染むファッションも取り入れ、ユニセックスなものにも挑戦しています。最近はどの世代も楽しめるファッションが多くなってきたと思うので、そういったもの、エシカルなファッションも取り入れ、自分の価値観を反映した商品、選択を大事にしたい (60代女性)

時代のミューズも従来型の女性像から、性別や年齢を意識させない個性的な人物像へ
創刊130年の歴史を誇り、今も欧米女性たちのライフスタイルをリードする女性向けファッション誌『VOGUE(ヴォーグ)』は、8月号のカバーガールに「腋毛モデル」を起用して話題を集めています。その英国出身のモデル、エマ・コリンさん(26)は最近、ノンバイナリー(性自認が男性でも女性でもない人)だとカミングアウトもしています。100年前には剃毛することが美しいというのが常識でしたが、今やナチュラル・ビューティの時代であり、なぜ女性だけが剃らなければいけないのかといった男女平等の意識もあるようです。腋毛を処理しない若い女性は2014年頃から増えており、ミレニアル女性の10人に3人は腋毛を残しているそうです。

男女の役割分担への意識や異性に求めることの違いが混在し、様々な固定観念が残る日本社会では、 女性が“無意識の束縛”から解放され、“自分らしく活きる”ことの手助けとなるコミュニケーションや顧客体験が今、真に求められているのではないでしょうか。

参考文献
注1) https://www.weforum.org/reports/global-gender-gap-report-2022/
注2) https://worldhappiness.report/


中村 容子
Interbrand Japan ディレクター / Experience Activation ​

インテリア設計会社、ニューヨークのデザインファームを経てインターブランドに参画。幅広い分野のコーポレート/リテイルブランディングプロジェクトにおける、コンセプト策定、カスタマージャーニー、デジタルコミュニケーション、エクスペリエンスデザインの開発経験多数。ブランド戦略からエクスペリエンスを創造するディレクターとして、空間デザインと顧客体験構築の経験・知見に基づいたクライアント支援を行っている。2020年に発足したInterbrandグローバルネットワークのDiversity, Equity & Inclusionの浸透を推進するDEI Boardメンバーとしても活動中。 ​